アラサー女の 成人ADHD記録〜ストラテラ飲んで仕事します〜

アラサー女、成人のADHDだけど、ストラテラの力を借りて、わりと楽しく生きてます。

この本、凄いです…!ADD(ADHD)を告白した栗原類さんの「発達障害の僕が 輝ける場所を みつけられた理由」を読んで

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栗原類さんの「発達障害の僕が 輝ける場所を みつけられた理由」を読みました。
発売されてすぐだったので、本屋さんの新刊の棚に山積みになってました。発達障害関連の本が、メインの棚に山積みということがすでに「偉業」な気もしますが、読んでびっくり、これまで読んだどの関連本とも違う、全く新しい形態の本でした。

 

ADHDに関する情報に興味のある人で、彼を知らない人はいないでしょう、と思いますが念のため。モデル、タレント、役者として活躍中の栗原類さん、21歳。2015年の5月にNHKの情報番組「あさイチ」の中で、自信がADHDの一種であるADD(注意欠陥障害)であることをカミングアウトし、話題になりました。ちょうど私も2015年の春に診断を受けてストラテラを服用し始めた頃だったので、このニュースが世間でどう受け止められるのか、非常に気になっていました。この本の執筆を始めたのが1年以上前ということなので、この告白の前後あたりに書き始めたということになりますね。

 

この本は、四章で構成されています。
PART1 僕はADD(注意欠陥障害)
・・・自分のADD特性について、できないことや苦手なことなど)
PART2 僕が輝く場所をみつけられるまで
・・・幼少期から現在までの自分史
PART3 僕が輝く場所をみつけられた理由
・・・ADDの特性にどう対応しているか
PART4 彼はなぜ輝く場所をみつけられたのか
・・・母親、主治医、友人から見た彼について

この、四章目「彼はなぜ輝く場所をみつけられたのか」が、すごいんです…!!

 

まず、今の日本で読めるADHD関連本の多くは、医者や大学教授、専門家が書いたADHDという発達障害の症状や対処法を紹介するものです。数年前まではほとんどがこどものADHDについてでしたが、最近は大人のADHDの本もとても種類が増えました。その中で、読みやすさや具体的な対処法で多少の良し悪しはあるけど、中身はだいたい同じです。で、それ以外の本でいくつか出されているのが、発達障害者本人による「自分の場合」を書いた本です。「発達障害の自分の育て方」とか「生きづらいと思ったら 親子で発達障害でした 」あたりですね。今回の栗原類さんの本も、このカテゴリーにはなるのですが、本人以外の「母親」「主治医」「友人」の声が載っているのがミソです。

 

 

 

発達障害者本人の視点には、「自分が自覚しているできない部分」と「それにこうやって対処しています」があるんですが、じゃあそれが周囲からはどう見えているのか、どう思われているのか、どこまでが「個性的だね」で済んで、どこからが「あいつ、アウトでしょ」なのか。この本では、本人以外の立場の違う三者が、それぞれから見た彼と、彼のADD特性を語っているので、多面的に見ることができます。中でも、読み応えがあって非常に為になったのが、母親である栗原泉さんの言葉です。

 

ADDの診断を受けたのは、ニューヨークに住んでいた小学生の時、ということですが、この時に、母である栗原泉さんも発達障害の診断を受けたそうです。ただ、同じ発達障害であっても二人の特性の現れ方は異なるようで、この診断時に専門家から言われた言葉として次のように紹介しています。

「あなたは小さいころ勉強もできて要領もよい、頭の回転も速くて、何でも他人より早くできる子、いわゆるできのいい子だと言われて育ってきたタイプでしょう。だけど発達障害というのは、ひとりひとりの特性が違います。あなたの息子さんはあなたと同じタイプではないのはわかりますね?あなたは自分が子どもの頃、何の苦労もなくできたことが、どうして息子さんにはできないんだろうと理解できないかもしれない。不思議でしょうがないでしょうね。だけどそう思った時は、子どもの頃に自分ができなかったことをたくさん思い浮かべてください。そして、自分ができなかったことで息子さんができていることを、ひとつでも多く見つけてあげてください。そうすれば「なんでこんなこともできないの?」という気持ちがしずまり、子どもを褒めてあげられるようになりす」と言われました。(中略)自分と子どもは別々の個性を持った人間であり、私にできないことを彼はたくさんやっている、と常に考えることで子どもを尊重し、心から褒めてあげられるようになります。(中略)「私はコイツにはかなわない」と思える彼のいい部分をたくさん見つけています。

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 “発達障害は個性です” “こどもを尊重しましょう”なんてのは、どの本を読んだって必ず書いてあって、言うは簡単だけど、それがどれだけ大変でストレスのかかることか。この本を読んでいると、何度も「コイツ、本当に…」「お前、今更何を言ってるんだよ…!」「胃が痛くなるレベル」「毎日が闘い」というマイペースな本人の陰で、母はこんなに大変だったんだなぁというのが分かる本音が炸裂で、すっごく親しみがわきます。聖母じゃあるまいし「子どもの個性を尊重し、我慢強く…」ってできるかーい!と、ADHDのお子さんをお持ちの親御さんのブログとか読んでると、本当に頭が下がります。なので、毎日のように喧嘩もするし、説教もするし、失敗もたくさんするけど、それでもこうして何とか乗り切ってきた、という親子それぞれの今の想いを読むと、これまで読んだどの関連本よりもリアルで「輝ける場所をみつけられた理由」というタイトルに偽りなしの親子の軌跡に感動し、素敵な親子だなと心から思えるのです。関連の本で「へぇ〜」「使えるわ〜」みたいな感想は数あれど、読んで感動を覚えたのはこの本くらいかも??

 

あと、じつはすごく重要な役割を果たしていると思ったのが、芸人であり、芥川賞作家のピース又吉さんのインタビュー。本屋で帯読んだときは髪型つながりなだけかと思ったわ(笑)年も結構離れているけど、一緒にいて楽しいし、お互いに似ているところがあると思うと話す二人。栗原さんのADDを知ったときには「へぇ〜そうなんや」と思ったということですが、それ以前にも「周囲に合わせて盛り上がるのとか、自分がしんどいと思うので、類くんもそうなんちゃうかなぁ?」と思ったりしてたとのこと。これって、発達障害は“白と黒の二択じゃなくて、白から黒へのグラデーション”ということを、とても自然に表しているなぁと私は感じました。“芸人”であり“芥川賞作家”であり、テレビや雑誌での行動や発言も、だいぶ個性的な又吉さん。彼が「自分と似てるとこあるし、面白い子だよ」って言うこの言葉こそが「発達障害の特性があったって、別に自分は自分だしな」という、最近ずっと思っていることをズバリ言ってくれているなぁと。

 

ADHDの特性を持っていると、社会人として壁が多いことは確か。でも、自分なりのやり方を見つけて攻略できることもあるし、スマホや家電などモノを活用することでできることもあるし、周囲の人が手を貸してくれるなら、借りればいいじゃん。でも、いざという時助けてくれる人がいてくれるように、周囲に対する挨拶やマナーなど、気持ちの良い関係でいられることに関しては、ちゃんと頑張ろう、と。そういうことなんじゃないかなぁと思うのです。又吉さんも「類くんは、嫌なことだからやらない、周囲にフォローを…というのではなく、甘んじないで、ちゃんとやろうというスタンスを持っている」と話しています。どうせダメだから…と腐らずにいることって、ADHDの特性を持つ人にとってすごく重要なキーワードだと思います。栗原さんは、これを「訓練してきたから」と語っています。やっぱり、お母さんのすごいところは、この心を育てることをきちんと目指してここまでやってきたというところですね。できないこと自体は責めない、けど、できるように努力することを投げ出した時には、本人にはキツイだろうとはわかっていたけど、叱ることを選んだと語っています。

 

いやあ、この本やっぱ凄いわ。発達障害当事者である本人の過去と今を見つめる目線。それができあがるまでに母はどんなことを考えどんなことをしてきたのかという、トレーニングとサポートの手段、それが主治医から見てどう成果に現れているかという裏付け、そして社会に出てから出会った友人として今の彼がどんな人間かという第三者の視点。この構成を考えた企画編集者&ご本人、素晴らしいです…!わあ、まだまだ感想文書けそうですが、キリがないのでこのあたりで。

 

ちなみに、彼のADD特性は自分と似ているところがすごくたくさんあり、いろいろな過去の失敗を思い出し、ほろ苦い気分になりました。あと、アメリカと日本の小学校における発達障害児のサポート体制も、お母さんのページで詳しく紹介してあり初めて知ることがたくさんで勉強になりました。

 

 

*1:「発達障害の僕が 輝ける場所を みつけられた理由」より